1957 World Championships for 2.5cc Control Line Speed
1957年世界スピード選手権大会におけるMVVSエンジンの活躍


このレポートは、加藤氏よりお借りした北海道模型飛行機連盟発行のCUMULUS1958年6号に掲載されていた、「Aeromodeller誌」「Model Aircraft誌」の記事を木村八宏氏が和訳したものに、MKが少々アレンジを加えて編集した物です。
また、画像は、丸山氏所蔵の文献よりBBSに以前掲載いただいた写真を加工使用しました。



チェコかイタリアの優勝が固いとにらんでいたら、チェコが個人とチームの優勝を一人占めにしました。
イタリアは2位、そしてハンガリーがこれに続くという結果になりました。

金曜日のうちにイギリスチームは、セッティングを終えていました。
Pete Wright(ピートライト選手)は、2,3回飛ばしただけだし、Ray Gibbs(レイギブス選手)も大会までは飛ばさないといっていました。

立派な競技会を開催しようと、チェコの人達は一生懸命にスピードサークルを作ってくれました。
スチールメッシュのフェンスは機体のラインが切れてもジャッジや観客が危険にならない丈夫なものでした。ところが、土曜日の朝にサークルに行くと昨夜の豪雨のために水面となっていました。各国の旗は垂れ下がり、円周はボートが漕げる湖のようでした。硬く荒い赤砂が敷かれていましたが、それでも柔らかい。
開始は、昼食後にするしかないように見えましたが、太陽が激しく照り付けて、また何度もローラー掛けをしたため、悪条件は解消されました。チェコにとっての幸運は、それだけではありませんでした。
と言うのは、Sladky(スラドキー選手)のエンジンがテスト飛行中におかしくなった(ピストンリング)ので、チームマネージャーのZdenek Husicka(ツデネク フクシカ氏)が徹夜で修理していたからです。
彼らはとりわけすばらしいピストンリングを用いていたのであるが、この件は黙して語りませんでした。


チェコチームは全員、Brno(ブルノ)技術研究所で製作された「M.V.V.S. Vltavan 2.5 1957special」エンジンを使用していました。このエンジンは世界選手権用に4台製作されました。(M.V.V.S. 2.5 1958のプロトタイプだと思います)




Sladky(スラドキー選手)は、ブリュッセルのクリテリウムですでに210kを出しているし、今年早々のヨーロッパ選手権でも209k出しています。彼にとって一番の挑戦者であるGibbs(ギブス選手)は、わずか6k遅いだけの2位でした。

また、ハンガリーのCsizmarek(シズマレク選手)やKrisma(クリツマ選手)は「Alag Y3」エンジンで16,000 rpmで0.28HPを出し、故郷では211kだしていたと言います。他の2人Beck (べック選手)と Vitkovits(フィトコヴィツ選手)は、ブタペストのハンガリー科学研究所で作られたB.R.V.Mを用いて相当な速度を出していたようです。Vitkovits(フィトコヴィツ選手)のエンジンはブロンズの軸受けにアルミのリヤロータリーディスク、一方のBeck (べック選手)のエンジンはベークライト製のディスクを使用していました。両方とも、2つのボールベアリングで条件によって30〜40%のニトロを用いているのが特徴です。

イタリアには、チェコの優勢が脅威でもありました。
Prati(プラーティ選手)とBerselli(ベルセーリ選手)は、有名な「Super Tigre G20」の再設計である新しい「Super Tigre G20V」を用いていました。クランクケースはより頑丈で、シリンダは歪みを防止するためにずっと厚く、新型ベアリングと新ヘッドになっています。 残り2人のCellini(チェリーニ選手)とGrandesso(グランデッソ選手)は、パワーアップされた「Barbini B40」エンジンで 6 x 8 や6 x 9 Tornado(プロペラ)を17,000 rpm回していました。

ロシアチームの使用するエンジンについては、多少未知数でした。
Vasilchenko(ワスィルチェンコ選手)は、世界記録保持者ですがチェコの「M.V.V.S1956タイプ」を用いていました。Gadjevski(ガドジェフスキー選手)はロシアの「V.I.D.-20」エンジン、Matalenko(マタレンコ選手)は自作エンジン、Kuznecov(クツネコフ選手)は「K.A.F19」エンジンを使用していました。彼らは、ニトロ供給が難しいらしく、メタノールとヒマシ油の75/25を使っていました。また、プロペラは6×8を使用し、Matalenko(マタレンコ選手)は10インチピッチでした。
他の国選手では、「Super Tigre」や「Torp 15」、「O.S.15」などもありました。
Ray Gibbs(レイギブス選手)は「Little Nipper  Carter Special」を用い、Pete Wright(ピートライト選手)はピークの性能でない「1957 Vltavan」の標準のバージョンと「Barbini」でした。

第1ラウンド
Vasilchenko(ワスィルチェンコ選手)と Cellini(チェリーニ選手)は別々のサークルに入っていました。(サークルは2面あったようです)二人ともスタートに失敗。他の選手には、少しも励みにはなりませんでした。気の毒なことに、 Cellini(チェリーニ選手)の「Barbini」は、反応無し?これはタンクか燃料パイプトラブルに違いないと思われました。
Grandesso(グランデッソ選手)もスタートにしくじったわけですが、Cellini(チェリーニ選手)のは明らかにグランドの砂が原因であったようです。このエンジンで彼は去年のFlorence(フィレンツェ)で200k(3位)になっていたのに・・・。

助手は、凸凹になっているところを絶えず足で踏み固めていたが地表には地より離れた砂粒がたくさんありました。そんなわけで、フロントインダクションのエンジンは、大変悩まされました。チェコを除いた選手は皆、この危険に打ち勝たなければならなかったのです。
チェコチームのエンジンは、すべてリヤロータリーディスクバルブですが、まだ飛ばしていません。そして、エンジンは、機体をダリーに乗せずに始動しています。彼らのエンジンさばきは実に優れた物で、チームワークとしては、一番の模範でありました。

Vasilchenko(ワスィルチェンコ選手)と Cellini(チェリーニ選手)のすぐ後に、チェコのSladky(スラドキー選手)は、飛行機を2人の助手に任せてサークルに入りました。飛行後、205kが告げられると、観衆から拍手が鳴り渡りました。この記録は、ハンガリーのKrisma(クリツマ選手)と同タイムで他のチェコ選手は、これより2〜3k少ないタイムです。もちろん、チェコのSladky(スラドキー選手)とハンガリーのKrisma(クリツマ選手)はこのラウンドでトップ。
第1ラウンドは、32人の内、18人の記録が取れませんでした。記録が取れなかった原因は、スタートの失敗、ショートラン、ペラの破損などでした。

前評判では、「電気のように早い」と言われていたRay Gibbs(レイギブス選手)がサークルに入り観衆は期待しましたが、これが悲劇となってしまいました。215kは出たかと思っていたら、5周したとき「Carter Special」のヘッドがすっぽりと飛んでしまったのです。調べてみるとシリンダーとライナーが破壊しており、エキスパートの意見では金属疲労が原因と言っていましたが、地表の砂がインテークから入ったのが原因であるとデザイナーのフレッド・カーター氏によって確認されました。Pete Wright(ピートライト選手)も記録が出せませんでした。




チェコ勢が力を発揮してきました。
V. Smejkal(スメジカル選手)と、M. Zatocil(ザドキル選手)はそれぞれ200kオーバー。204kと、202kです。新人のF. Pastyrik(フランソ・パスティリク)も、194kを出しました。F. Pastyrik(フランソ・パスティリク)のエンジンは、4台の「M.V.V.S. Vltavan 2.5 1957special」のうち、一番最後に出来上がった物なので大会前の2日間で仕上げなければならなかったらしいです。チェコ選手達がこのように皆好記録なので、他の選手が互角に戦うには、相当の奮戦をしなければならなかったと思われます。

選手には、1ラウンド4時間の持ち時間が与えられます。今回の大会では、土曜日に第1、第2ラウンド、そして第3ラウンドは日曜日に行われます。



第2ラウンドになると、Pete Wright(ピートライト選手)は、Ray Gibbs(レイギブス選手)の燃料を使って165kを出しました。しかし、エンジンは空中よりも、地上の方が良く回っていた感じです。Ray Gibbs(レイギブス選手)は、「Super Tigre」の2号機を出したが、タイムキーパーが計時を止めたほど全くダメでした。
Sladky(スラドキー選手)は、第1ラウンドより6k速かったので観衆は歓呼した。M. Zatocil(ザドキル選手)は前回より9k速く、Sladky(スラドキー選手)と並んで211kを記録した。この記録は、去年のFlorence(フィレンツェ)の優勝記録と同じです。

後になって、Sladky(スラドキー選手)にチェコの燃料について尋ねると、45%ニトロメタン、20%ニトロベンゼン、10%メタノール、24.5%カストルオイル、そして0.5%何か?を混ぜているのだと言う。この0.5%については、笑って答えませんでした。また、彼等の使っていた自作のプロペラは、恐ろしいほどの鋭さを持ち、回転速度にあわせて削ってありました。

A. Prati(プラーチ)は198kを出し、P. Berselli (ベルセーリ)の機体を飛ばして(代理飛行)は、197kを出しました。Cellini(チェリーニ選手)はまだトラブルに悩んでいました。Grandesso(グランデッソ選手)は197kを出して彼の最初の記録飛行となりました。前にも述べましたが、A. Prati(プラーチ)の「Super Tigre G20V」はクランクケースが大きく、丈夫であり、インティークは拡大され(FOX29のような)直径9mmもある掃気路に対して排気は普通でした。ピストンは普通のラップピストンで(以前は中央部のダイヤが減じてあった)、回転は地上で17300、空中では19000ぐらいは回っていました。
土曜日の結果は以上で明日の最終ラウンド待ちとなりました。




翌朝8時にサークルに来ると頭上にはすでに爆音がしていました。朝から観衆でいっぱいです。

第3ラウンド(最終ラウンド)に、Sladky(スラドキー選手)は、216kを出し、格納庫の屋根を吹っ飛ばさんばかりの喜びようでありました。チェコチームのスタート係りはプロペラを1回たたくだけで始動するぐらいのすばやい動作で、飛行機は3秒後には飛行しています。そして、M. Zatocil(ザドキル選手)は214kを出しました。F. Pastyrik(フランソ・パスティリク)は、このラウンドでは高速を出せず、3位にとどまりました。
「Barbini」を駆使したGrandesso(グランデッソ選手)は、204kを出して気を吐いていました。残念ながらP. Berselli (ベルセーリ)のプロキシー(代理飛行)のA. Prati(プラーチ)は、200kにとどくことが出来ませんでした。Pete Wright(ピートライト選手)は、「1957 Vltavan」の機体を出しましたが、160kで22位に終わりました。


以上のように、チェコはチームと個人の両方で栄誉を勝ち取ったのです。「いくらでもスピードが出るぞ!」と言わんばかりに、ラウンドごとに尻上がりにスピードを出していった。これは、実に見事なことだと思います。
このことは、MVVSエンジンを作った祖国への報いであると同時に、世界のエンジンデザイナーに対する挑戦といえるでしょう。


FLIGHT (km/h)
Place NAME COUNTRY R 1 R 2 R 3
1 J. Sladky Czechoslovakia 205 211 216
2 M. Zatocil Czechoslovakia 202 211 214
3 F. Pastyrik Czechoslovakia 194 208 0
4 G. Krizsma Hungary 205 0 203
5 V. Smejkal Czechoslovakia 204 204 203
6 Renzo Grandesso Italy 0 197 204
7 M. Vitkovits Hungary 0 184 200
8 A. Prati Italy 192 198 197
9 P. Berselli (A. Prati) Italy 189 197 180
10 M. Vasilchenko Russia 194 185 191
11 R. Beck Hungary 189 0 0
12 J. Czizmarek Hungary 0 182 186
13 A. Kuznecov Russia 159 184 184
14 H. Gorziza W. Germany 0 163 180
15 B. Hagberg Sweden 163 171 179
16 O. K. Gajevski Russia 0 163 173
17 H. Stouffs Belgium 0 165 171
18 P. Deligne Belgium 0 160 171
19 L. Bovin Sweden 0 0 169
20 J. Frolich W. Germany 0 169 169
21 V. Natalenko Russia 165 162 156
22 L. Wright Great Britain 0 165 160
23 S. Tinev Bulgaria 151 160 0
24 B. Martinelle Sweden 147 0 151
25 I. Vasilev Bulgaria 0 0 141
26 K. Raskov Bulgaria 0 0 134
27 L. Boncev Bulgaria 0 0 0
28 A. Cellini Italy 0 0 0
29 R. Gibbs Great Britain 0 0 0
30 R. Hagel Sweden 0 0 0
31 E. Hamalainen Finland 0 0 0
32 K. Jaaskelainen Finland 0 0 0



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